玄武岩とは?黒っぽい身近な火山岩の特徴と見分け方を解説
はじめに
私たちの身の回りや、旅行先などで目にする石の中には、地球内部の活動によって生まれたものが数多く存在します。その中でも、特に身近でありながら、地球の成り立ちを理解する上で非常に重要な役割を持つのが「玄武岩」です。海岸や河原、山道などで、つぶつぶがあまり見えない黒っぽい石を見かけたら、それは玄武岩かもしれません。この石は、地球の表面を覆う地殻の大部分を構成しており、火山活動と密接に関わっています。
この記事では、玄武岩がどのような石なのか、その基本的な特徴から、どのようにしてできるのか、そして似ている他の石とどう見分けるのかについて詳しく解説します。コレクションとして玄武岩に関心をお持ちの方や、地質学的な視点から自然を観察することに興味がある方にとって、玄武岩への理解を深める一助となれば幸いです。
玄武岩とは?
基本情報
- 名称: 玄武岩(げんぶがん)
- 英名: Basalt(バサルト)
- 分類: 火成岩(火山岩)
- カテゴリ: 石(岩石)
玄武岩は、マグマが地表近くや地表で急激に冷え固まってできた火山岩の一種です。火成岩の中でも、シリカ(二酸化ケイ素)成分が比較的少なく(約45〜53%)、鉄やマグネシウムを多く含む苦鉄質岩に分類されます。地球の海洋底のほとんどは玄武岩でできており、大陸地殻の一部や火山島などにも広く分布しています。
玄武岩の特徴
形態
玄武岩は、一般的に非常に細かい鉱物の粒が集まってできており、肉眼では個々の鉱物結晶を識別することが難しい、緻密な組織を持つことが多いです。これは、マグマが急速に冷え固まるため、鉱物が大きく成長する時間がないことに起因します。
また、溶岩が流れる際に含まれていたガスが抜けた痕として、丸い穴(気泡)が多数開いているものもよく見られます。このような玄武岩は「多孔質玄武岩」や「スコリア」と呼ばれます。
さらに、厚い溶岩流や溶岩湖がゆっくり冷える過程で、体積収縮によって規則的な割れ目が生じ、柱状の構造を形成することがあります。これは「柱状節理」と呼ばれ、断面が五角形や六角形になることが多く、壮大な景観を作り出すことがあります。
色・光沢
玄武岩の典型的な色は黒色や暗灰色です。これは、含まれる鉄やマグネシウムに富む鉱物(カンラン石、輝石、磁鉄鉱など)の色が強く影響しているためです。ただし、含まれる鉱物の種類や比率によっては、緑がかったり、褐色の斑点が見られたりすることもあります。風化が進むと、鉄分が酸化して表面が赤褐色や茶色に変色することもあります。
光沢は、ガラスのような光沢(ガラス光沢)を示すものから、あまり光沢のないもの(無光沢)まで様々です。基質の細かい部分や、含まれるガラス質の量によって光沢の具合は異なります。
硬さ・もろさ
緻密な組織を持つ玄武岩は比較的硬く、一般的にモース硬度で6前後の硬さがあります(鉄製のナイフで傷つきにくい程度)。これは、含まれる鉱物の硬さや粒子の結びつきの強さに依存します。一方、気泡が多い多孔質のものは、同じ玄武岩質でも比較的もろく、手で簡単に崩れることもあります。割れ方は、緻密なものは不規則に割れることが多いですが、気泡が多いものは割れ口がざらざらしています。ガラス質の部分が多い場合は、黒曜石のように貝殻状に割れることもあります。
産地・生息環境
玄武岩は、主に火山活動が活発な地域で見られます。具体的には、火山島(例:伊豆大島、ハワイ諸島)、ホットスポット上の火山、海嶺、大陸の洪水玄武岩台地などに広く分布しています。日本では、富士山や伊豆大島、桜島など、多くの火山の溶岩流や噴出物として見られます。海岸線で見られる「溶岩海岸」や、河原に転がる石の中にもよく見つかります。
生成・形成過程
玄武岩は、地下深部、主にマントル上部や地殻下部で発生した苦鉄質マグマが、地表に噴出して急速に冷え固まることによって形成されます。マグマが地上に噴出すると、急激に温度が下がるため、鉱物結晶が大きく成長する時間がなく、微細な結晶やガラス質の部分が多くなります。
マグマが地表を流れる溶岩流として冷え固まる場合や、海底に噴出して枕状溶岩となる場合、火山噴火に伴って火山弾や火山灰として噴出し堆積する場合など、様々な形で形成されます。溶岩流の場合、表面は急冷されて緻密になり、内部は比較的ゆっくり冷えるため、組織に違いが見られることもあります。マグマに含まれるガス成分が地表で開放される際に、気泡として抜け出ることで多孔質な構造が生まれます。
似ているものとの見分け方
玄武岩は黒っぽい色をしているため、一見すると他の黒い石と紛らわしいことがあります。コレクションの際に、正確に識別するための見分け方のポイントをいくつかご紹介します。
- 安山岩(Andesite): 安山岩も火山岩で、玄武岩よりシリカ成分がやや多い中間質岩です。色は玄武岩より明るい灰色や暗灰色を呈することが多く、肉眼で斜長石などの白い鉱物の粒(斑晶)がはっきり見えることが多い点が玄武岩との違いです。玄武岩は肉眼で鉱物粒が見えにくい緻密なものが多いです。ただし、玄武岩と安山岩の中間的な性質を持つ岩石もあり、厳密な区別には専門的な分析が必要な場合もあります。
- 黒い堆積岩(泥岩・頁岩など): 黒っぽい色の堆積岩(例:黒色頁岩)も存在します。これらの堆積岩は、泥や粘土などの細かい粒子が海底や湖底に堆積し、長い時間をかけて固まったものです。玄武岩のような緻密さや硬さがなく、触ると泥っぽい感触があったり、層状に剥がれやすかったりすることがあります。ルーペで観察すると、非常に細かい粒子が見える場合もあります。玄武岩は火成岩特有の微細な結晶構造を持ち、堆積岩のような層状構造は通常見られません。
- スラグ(人工物): 製鉄所などでできる副産物であるスラグも、黒っぽく、気泡を含む多孔質なものがあり、玄武岩のスコリアに似ていることがあります。しかし、スラグは人工物であり、自然界の岩石とは異なる組成や構造を持ちます。不規則な形や、天然石には見られないガラス質の光沢や質感、独特の気泡の形などで見分けることができる場合があります。
見分けのポイントは、石の色、肉眼で結晶が見えるかどうか、気泡の有無とその形、重さ(玄武岩は堆積岩より重い傾向)、そしてその石が見つかった場所の地質情報(火山地域かどうか)などを総合的に判断することです。ルーペを使って表面の組織を観察することも有効な手段です。
玄武岩に関する関連知識
- 歴史的な利用: 玄武岩は世界各地で古くから建材や舗装材として利用されてきました。耐久性があり、加工もしやすいため、石垣や城壁、彫刻などにも使われています。日本の城の石垣にも玄武岩が使われている例が見られます。
- 学術的な重要性: 玄武岩は地球の海洋地殻の主成分であり、地球のプレートテクトニクスを理解する上で非常に重要な岩石です。また、月面探査や火星探査においても、これらの天体の地質や進化を探る上で玄武岩の分析は欠かせません。月の暗く見える部分(「月の海」と呼ばれます)の多くは、玄武岩質の溶岩が固まってできた平原です。
- 観察や採集のヒント: 玄武岩は火山地帯やその周辺、海岸、河原などで比較的身近に見つけることができます。特に、柱状節理が見られる場所は、壮大な景観と共に玄武岩の形成過程を肌で感じることができる貴重な場所です。観察や採集を行う際は、立ち入り禁止区域に入らない、私有地に無断で立ち入らない、崩れやすい崖など危険な場所には近づかないなど、安全とマナーに十分配慮することが大切です。採取する場合は、個人で楽しむ範囲にとどめ、環境保全に協力しましょう。
まとめ
玄武岩は、黒っぽい色と緻密な組織が特徴の火山岩であり、地球の地殻、特に海洋底を構成する主要な岩石です。マグマが地表で急速に冷え固まることで生まれ、多孔質なものや柱状節理を形成するものなど、様々な姿を見せます。安山岩や黒い堆積岩など、似た石との見分けには、色や結晶の大きさ、気泡の有無、組織などを注意深く観察することが重要です。身近な場所に存在する玄武岩は、地球のダイナミックな活動や、遥か宇宙の天体の地質にも繋がる興味深い自然物です。ぜひ、身の回りの玄武岩に注目し、その特徴を観察してみてください。